周囲を森に囲まれた街道。夕日は既に沈みつつあった。木々は静寂に向かいつつある空間の中、静かに梢を震わせている。
ときおり強く吹き付ける北風。その度に、森は不気味に蠢く。ざわざわと騒ぎ立てるその姿は、生の鼓動を拒否するかのように虚ろだった。
その、木々の作り出した影に包み込まれそうになりつつも、一人歩みを進める旅人の姿があった。
つややかに伸びる、長い黒髪。その髪に包まれた、華奢で端正な容姿。そして、その身を周りの闇から護るかのように佇む、僧侶の正装。
漆黒に染まりはじめた森に飲み込まれてしまうかのようにも見える彼女。だが、その瞳は何物も阻めないと思わせるほどに、固い決意を秘めていた。瞳は前を真っ直に見つめている。その瞳に導かれるかのように、彼女は足早に、しかし着実に足を進めていた。
彼女の名は、シルフィール・ネルス・ラーダ。かつてはサイラーグ・シティの神官長の娘として、巫女頭を務めていたこともある。が、ある事件により、彼女はセイルーン・シティの親類の元に身を寄せることに。
そして、今再び、ある目的の元にサイラーグ・シティに向かっている。サイラーグ・シティから離れた時と同じ道をたどって。
彼女の意識の中には、半年前が戻りつつあった。
レゾの出現。侵食されていく街。街からの脱出。ガウリイとの再会。レゾとの対決。
…そして、消滅したサイラーグ・シティ。
彼女が足を一歩進めるごとに、彼女の記憶もまた一歩ずつ戻っていった。つい昨日のようにも思える「あの日」の記憶が、錯綜する記憶の中で駆け巡っていく。「あの時」に、限りなく近づいていく。
が、その一歩手前で、記憶が消滅する。
忘れるはずもない、あの瞬間。それでも、彼女はその記憶にたどり着くことはけしてできないのだった。
レゾを倒し、リナ達の手配を解くためにあちこちを駆け回っている間も。セイルーンで、叔父の手伝いをして忙しく働きまわる間も。
「あの時」には、たどり着くことが許されていなかった。
だが。この旅を始めたときから、「あの時」が少しづつ戻ってきているような気がする。
サイラーグ・シティに近づいて、全てを目にしたとき。
「あの時」が戻るのだろうか。
「ふぅ…」
伸びる街道の向うに、灯りが見えた。あれがレムリッド・シティらしい。
日は完全に山の向うに落ちていた。「明り(ライティング)」がなければ、漆黒の闇が広がっているはず。この辺りはそれほど物騒な場所ではないとはいえ、やはり少し不安がある。でも、昼間着いた村で泊まらずにここまで来て、ずいぶんと日程が短縮されたのだから、仕方がない。
「早く、街の中に入ってしまわないと…」
私は歩みを早めた。
あともう少し歩けば、森が途切れるはず。そこまで行けば、あとはレムリッド・シティまでほんの少しだった。ここまで歩いてくるときはそうでもなかったような気がするが、ずいぶんと疲れが出てきている。今後のことも考えて、今日は早く休みたい。
順調に行けば、あと20日ほどでサイラーグ。多少無理をすれば、15日くらいで行くことも可能なはずだった。
そこまで行って、何ができるかは別にして…。
「んんっ……」
私は思わず首を振っていた。
何ができるかは、着いてから決めること。今は、ただサイラーグに行かなくてはいけない。
そう、決めたのだから。出発のときに。
「…そう、よね」
「何が『そう』なのかな?」
「…えっ?」
私は突然聞こえてきた声に首をかしげた。
こんな時間に、こんな場所で人の声を聞くこと自体妙なこと。まして、今の声は口調から判断しても、子供の声…。
「こんな夜道を一人で歩くなんて、危ないんじゃない?」
再び聞こえてきた声。後ろから。
振り向いてみると、一人の少年…それとも「男の子」というべきか…がいた。
さらりとした黒髪の中に、可愛らしく整った顔。ふわりとしたローブを着ているところからして、魔術師見習いのようにも見えた。
「…あなた?どうして、こんな時間に、こんなところに…」
どう反応すべきが迷ったが、私は心の中で思ったことをそのまま質問した。
「どうして?そうだね、おねーさんがここにいたからってことになるかな」
「……?」
「忘れちゃったの?ボクだよ、ボク」
戸惑う私。が、次の瞬間、精神の中に突然何かが入り込んできた。
「……?んっ…!?」
強力な力。私は頭を抱えたまま、地面に膝をついてしまった。心の中で、どす黒い何かが暴れ回る。心の隅々まで蹂躪するかのように。
「あ…ぐっ…っ…」
私は必死に耐えようとしていた。が、漆黒は情け容赦なくあたしの精神を痛めつけていく。
「ふふふ…思い出したかい?」
息が苦しくなる。意識が朦朧とする。そのまま、私は地面に倒れていった。
気がつくと、目の前に奇妙に蠢く空間が広がっていた。
いや、違う。これは、私の目が見ている空間ではなく、頭の中に直接そのイメージが流れ込んできているらしい…。
ということは、ここは普通の場所ではないということ。
「確かに、場所は普通ではないかもしれないけどね」
「えっ!?」
突然、「声」が聞こえた。
「ここはあくまで意識の中で展開されている世界、だからおねーさんが『見て』いるのは自分の意識そのものなんだよ」
「そう…なの?」
私は思わず周りを「見回し」た。すると、さっきの男の子の姿が現れる。
「おねーさんが見ている僕の姿も、あくまでおねーさんの意識の中のものなのさ。僕がそこにいるってわけじゃないんだ」
「………?」
彼の言葉に、私は眉をひそめた。その瞬間、彼の姿はブレて見えなくなる。
「あら…」
「『見えて』いるのはあくまで意識の中での不確かな存在だから、何か疑ったりすると『見える』ものが全く変わってくるのさ」
声と共に、再び彼の姿が現れた。
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだけどね。他に重要なことがあるんだから」
「…?」
「まだ気づいていないの?もう『あれ』が意識のスミから抜け出して、出てきているはずだけど」
「なんなの?その『あ…」
私が言葉を言い終わらないうちに、私の前に黒い塊が現れた。
「こ、これは…?きゃっ!」
グ…ヴァッ!
たじろぐ間もなく、それは一気に膨張して私の意識を覆い尽くす。
「な…何っ?これは何なのっ!?」
「これも、ただの記憶の断片さ。表層下の意識に眠っているのを引っ張り出してきたやつだけどね」
ただ黒く渦巻いているだけだったそれも、やがて段々と収まりはじめた。そして、そこに何かの光景が映し出されてくる。
「これは…?」
見覚えのある場所だった。薄暗い洞窟のようにも見えるが、その壁は岩ではない。巨大な樹木の中に、空洞ができてできた洞窟なのだ。
すなわち、サイラーグ・シティのシンボル、神聖樹の内部。私が小さかった頃によく遊んだところだった。他の子供は怖がって入ろうともしなかったこの木の内部を、私は隅から隅まで熟知している。
今映っているのは、神聖樹の中でも特に奥まったところだったように思えるのだが…。
「…一体、この場所に何の意味があるというの?」
「ふぅん…長い間隅っこに押し込められていて、記憶が不鮮明になっているのかな?」
「どういうこと?」
「ま、いいさ。記憶が消えたわけじゃないみたいだし」
私の質問には全く答えようともせず、彼は一方的に言い放った。
…記憶?
一体、何の記憶であるというのだろうか?
「抑圧されてきた記憶さ。強引にね」
「抑圧…?」
「詮索しようとしなくてもいいよ。今に嫌でもわかるんだから」
それきり、彼の「声」は途絶えた。
代わりに、コツン、コツンと小さな音が遠くから聞こえてくる。あれは…靴の音?段々と近づいてきているようだ。
やがて、その音の主が姿を現した。やや小柄だが、その身体を覆わんばかりに長く伸びる黒髪…。
「…えっ!?」
私…だった。やや小柄に見えたのは、12、3才くらいの時の姿だったからだ。ちょうど神官見習いになり立ての頃の私。
「なんで…ここに?…」
記憶…。これのこと?私の幼かった頃の記憶?一体それが、何を…。
『………』
「私」は立ち止まったかと思うと、そのままぺたんと腰を下ろした。
すると、その前にぼうっとした姿が浮かび上がる。
あれは…。「私」と同じくらいの、黒髪の男の子…。
………。
…「彼」!?
「んっ…!?くぅぁぁぁぁっ…!?」
その瞬間、私の頭を再び激痛が襲った。今度は、外から何かが侵入してきているのではない。私の頭の中で、「何か」が突如首をもたげ、暴れ回り始めている。今まで眠っていたものが突然目覚めたかのように、それは激しく私の頭…いや、精神(こころ)を蹂躪する。
………
「また、来てくれたんだね」
男の子が言った。とても嬉しそうな顔をして。
「あなたとのやくそくだもの…。毎日、ここに来るって」
「ありがとう、ぼく、とってもうれしいよ」
ゆうれいみたいにぼんやりした姿だけど、カル君はいつも本当に喜んでくれる。わたしはカル君の笑顔を見るだけで、幸せな気持ちになれた。
「シルちゃん、しんかんの勉強、いそがしくないの?」
「ううん、全然平気よ。だいじょうぶ」
最初に会ったときに、「カル、って呼んでくれればいいよ。きみの名前は?」って言ったから、わたしも思わず「シル…って呼んで」って言っちゃった。誰にも、そんな名前で呼んでもらったことないのに。
でも、「シルフィール」とはちがう自分ができたみたいで、なんだかとっても楽しかった。
「そうなんだ…シルちゃんって、頭いいもんね」
「やだ、そんなことないわよ。絶対、カル君の方が…」
「ううん、そんなことないってば」
そうなんだ。ちょっと話し方がわたしより子供っぽい気もするけど、カル君って時々すごいことを知っていたりする。まだわたしが見たこともない、エルフとか竜のこととか、すっごい昔にあったお話とか。どこで覚えてきたのか知らないけど、カル君って本当はわたしなんかより何倍もすごいんだと思う。
他にも、たとえば…。
…ちょっと、わたしはほっぺを赤くしてしまった。カル君って、他にももっといろんなことを知っているんだけど、それは…。
「…どうかしたの?」
「えっ!ううん、なんでもないわ…」
「ふぅん…。…ねぇ…、シルちゃんのもっとかわいいとこ…、見たくなっちゃったなぁ…」
きた。
「えぇーっ…もうなの?」
「だって…もっとかわいいシルちゃん、みたいんだもん…」
…最近、カル君っていつもこう言う。前は3回か2回で1回ぐらいだったのに、近ごろは毎日。それに、前はもっとおしゃべりしてからだったのに、今日は会ってすぐだし…。まぁ、ちょっと勉強がいそがしくて、カル君といられる時間も短くなってきてるんだけど。
「ねぇ…ダメ?」
「んー…まぁ、いいけど…」
「ありがとう、シルちゃん!」
「ちょっと待ってね…」
わたしは座ったまま、服をぬぎ始めた。神官の服は着るのもぬぐのも大変だけど、今着ている服は簡単にぬげる服だ。すぐにわたしははだかになってしまった。
「きれい…ほんとうにかわいいよ…」
「ありがとう…カル君」
カル君が、うらやましいみたいな目でわたしを見てる。ちょっとわたしはうれしかった。
はだかのところをカル君に見せるのも、最初のうちははずかしかったけど、カル君が「きれいだよ」「かわいいよ」って言ってくれるから、ぬいでもそんなに恥ずかしくはなくなってきた。
「ん…」
わたしは両手を胸のところに当てて、ゆっくりなで始めた。
優しく、つつみこむように手のひらを動かす。少しすると、じんわりと体の奥から暖かくなってきた。その暖かさが段々と膨らんできて、熱いくらいになっていく。体のすみからすみまで桃色にそまっていくのがわかった。
「きれいだよ…シルちゃん」
「んん…カル君…」
理解できなかった。
あれは、確かに私。しかし、記憶は…。では、幻影?だが、この「記憶」と出会うときに私の頭を駆け巡った強烈な衝撃は…。
私は…否定しようと…。
した…。が…。
「…あっ…ん…」
わたしの指は胸の先をころころと転がしていた。熱い気持ちがだんだん大きくなっていって、体の中でふくらんでいく。それといっしょにわたしの胸の先も、ぴんとなってしまった。
その、かたくなった所をいじっていると、ますます熱さがこみあげてきてしまう。でも、その熱さが、いつのまにかちょっとちがう感じになっていく。
最初のうち、この気持ちがなんなのかわからなかった。ちょっとこわくもなったし、へんなのかと思ったこともあった。でも、カル君がその時言ってくれたんだ。
『シルちゃん、気持ちよさそうだよ…』って。そう言われたとき、『あ、これってほんとに気持ちよさだ』ってわかったの。それからは、カル君にはだかを見せるだけじゃなくて、自分も気持ちよくなれるって思うようになって、楽しくなってきた。
「シルちゃん…そうしてると、いちばんかわいい…」
カル君がそう言って、わたしははずかしいような、くすぐったいような気持ちになってしまった。
でも、とってもうれしかった…。
「んんっ…」
わたしは片方の手でおなかの下の方をさわってみる。さっきまでとは少しちがう、でもやっぱり気持ちいい感じがする。胸の方の熱さとおなかの熱さがいっしょになって、もっと熱くなってきた…。でも、その熱さがどんどん気持ちよさに変わっていく。
カル君は、うっとりしたみたいな目でわたしのことを見てる。こうしてると、やっぱりカル君はわたしより小さいのかな、って感じがする。
そんなカル君のこと、かわいいなって思った。
「ん…カル君…」
わたしは、ぷくっと膨らんでる小さな粒をそっとなでてみる。
「あうっ…!」
これまでとはちがう、びりっ、ていう感じが背中をのぼっていった。わたしは思わず声を出してしまう。
わたしはおそるおそる、もう一度指でさわってみる。
「ううんっ!」
わたしはさっきよりも大きい声を上げてしまった。今度はつま先から頭のてっぺんまで、全部がふるえるみたいな感じがした。
けれど、やっぱりこれも気持ちよさだった…。
あたしは時々びくっと腰をふるわせながら、そこをさわり続けてしまう。ちょっとこわかったけれど…。どうしようもなく体が熱くなって、だんだん何も考えられなくなってくる…。
「んん…んぅっ…あ…」
いつのまにか、わたしの頭はカル君のことだけでいっぱいになっていた。カル君のことを思いながら指を動かしているだけで、なんだかとっても幸せなものにつつまれていった。
そのうち、頭の中が真っ白になってきて…。
目を…開けた。
うっそうと茂った、夜の森。
遠くに見える、町の灯。
漆黒の中を不気味に過ぎ行く黒い雲。
そして、
…「彼」。
「………」
私は、何も言わずに対峙していた。
「どうだったかな?子供の頃の思い出は」
表情も変えずに言う彼。
「まぁ、そう恐い顔をしないでよ。あれは事実だったんだよ。10年前のね」
私は何も反応せず…いやできずにいる。
「あの記憶を抑圧したのは、君の父親だ。かなり強引に押し込めようとしたせいで、君のあの頃の記憶はほとんど消し飛んでしまった」
確かに、私には10才から12才くらいまでの記憶がほとんどなかった。理由も全くわからず、前から不思議には思っていたのだが…。
「でも、所詮は抑圧なんだよ。その断片は君の記憶の片隅に残っていたのさ。…それも、ああいう形でね」
私は少し動揺した。
「まぁ、それも僕がいなければ目覚めることなんてなかったろうけど。ご親切にも僕を覚醒してくれた人がいたもんでね。君と再び御対面、ということになったわけさ」
「誰なの…その人は」
私は始めて口を開いた。まだかすれた声だったが。
「まぁ、君が知っている人ではないだろうし。知ってもしょうがないと思うよ」
しゃあしゃあと言い放つ。
「重要なのは、君の記憶が既に覚醒したということ、そして僕が今ここに存在しているということさ」
「…どうなるというの?」
「こうさ」
びっ!と衝撃が全身に走った。
「!?」
私はその場に崩れ落ちる。
体が…動かない…。
「なっ…何をする気っ?」
私は怖じ気づきながらも言った。霊縛呪(ラフアス・シード)と同じように、話すことだけはできるようだが…。
「同じだよ、10年前とね」
「いっ…いやああぁぁぁぁっ!」
私は絶叫した。
「やめて…やめてぇっ!」
「言うことがまるで違うね、昔と。シルちゃん」
「ちっ、ちがう…私は、シルフィール・ネルス・ラーダ…シルフィー…」
自分自身、何を言っているのかわからなくなっていた。ただ恐怖感だけが心に渦巻く。
「…ひっ!」
私の足に彼の手が触れた。あたしは逃れようとする…が、もがくことさえできなかった。
そのまま、彼は指を滑らせてくる。ゆっくりと、しかし徐々に上の方に…。
「いや…やめて…」
私は弱々しくつぶやいた。しかし、彼の指先はそんなことを全く気にしていないかのように、私の足を伝っていく。指を右に左に滑らせながら。
やがて彼の指が足の付け根に近づいてくる。
…びずっ!
「っ!?」
次の瞬間、私の下着は何かの力に切り裂かれていた。吹きすさぶ冷たい風の感触で、そこが露わにされてしまったことがはっきりわかる。私の恐怖感は募るばかりだった。
その部分に、彼は指を絡ませようとしてくる。
「うっ…ううっ…」
私は瞼を閉じ、ただ鳴咽するだけだった。しかし指の動きは止まる気配を全く見せていない。そのまま私の秘部の上で、ゆっくりと踊り始める。
…彼の指は、女性のそれのように滑らかでしなやかだった。そして、慈しむかのように優しい動きだった。私は「彼」とその指の感触のギャップに戸惑う。
彼の指は、私の秘所を少しづつ刺激し始めた。そっと指先でつついたり、全体を軽く撫で上げたり。けして乱暴な動きはしない、繊細なタッチだった。
「お願い…やめて…」
もう一度私はつぶやく。拒否しているというより、何かすがるものを見つけたいというため、それだけに出たような言葉だった。
そんな弱々しい抵抗を試みつつも、結局私には彼から逃れる術はないのだった。その指の動きも、最初のうちは緩慢だったが、徐々にはっきりとしたものになっていく。丁寧な動作は保ったまま。
「ん…やっ…」
いつしか、ちろちろと小さな炎が頭をもたげ始めていた。小さく声を漏らす。私は必死になってそれを消そうとするが、一度生まれてしまったそれはなかなか消えようとしない。
焦りがあった。これを放っておけば、際限のない屈辱と汚辱にまみれていくような気がした。
しかし、そのわずかな炎をも敏感に感じ取ったのか、彼の指の動きがにわかに速まる。その動き自体も大胆になり、明らかに私の中の炎を燃やそうとしているものになっていた。
秘裂に指を突然食い込ませる。蠢く媚肉に何度も触れてくる。先ほどの繊細さは失われていたが、緩急を備えたその踊りは的確に私の性感を呼び覚まし、確実に炎を燃え上がらせていく。
圧倒的な淫魔の技巧。それに抗う術はなかった。
「だ…だめっ…」
拒否ではない、諦観が生んだその言葉。
それが、私の堰を切ってしまった。熱く燃えたぎる炎はますます勢いを増し、私の中で膨れ上がっていく。
それに追い討ちをかけるかのように、彼の指が私の秘核を捉える。
「あぅぁっ!」
私は思わず叫びを上げてしまう。これまでとは全く違う、激しく突き抜けるような快楽が走った。その途端、熱いものが私の中から迸り出る。私の顔は羞恥の紅に染まった。
「どうしたの、シルちゃん」
ぶるぶると腰を震わせる私に、彼は話しかけてきた。
「あ…あぅ…」
「顔が真っ赤だよ。そんなに恥ずかしいの?ここが」
くちゅ…
彼は私の秘部に触れてくる。私の果汁が音を立てた。その感触に、また腰をびくつかせてしまう。
「昔は、もっと恥ずかしいこと僕の前でしてたのに…」
「そ…そんな…」
「まだまだ溢れてくるみたいだね。もう我慢ができないんじゃないの?」
ぬちゅっ…
私の蜜壷に、彼の指が侵入してきた。引き抜いたその指が、そのまま秘裂を割りさく。恐怖に震える小さな肉芽が、その真紅の姿を露わにした。
そのまま彼の指が動き、紅い真珠は妖しく濡れ輝き始める。
「っはっ…くふうっ…」
もはや、声を漏らすのを耐えることもできなかった。炎は際限なく燃え盛り、快楽は溢れてとめどがなかった。
彼の指先が秘核に絡まるたび、激しい快楽が身体を包む。そして、私はその度に声を上げていた。充血し、膨れ上がったそれは逃れることができない快楽を私の全身に与え続ける。
「…あぅ…」
そして、私の頭の中が白くなり、大きな快楽が私を包む。
達してしまった…。
軽くではあるが、私は間違いなく彼の指先によって絶頂を迎えてしまったのである。
「ううっ…」
何も考えられない思考の中で、ただ恥辱だけが渦巻いていた。理性で律することのできないこの肉体が、浅ましく恨めしかった。もはや、次に何が起ころうとしているのかを見る気力もなかった。
…だが、彼がまだ何かしようとしているのは明らかであった。
しばらく何もなかったかと思うと、何の前触れもなく私の両足が彼の手によって押し広げられる。次の瞬間、私の腿に髪の毛が触れた。
…えっ!?
腿に、髪の毛の…。すると…。
「いっ…いやああああああぁっ!」
ぺちゅっ…
だが、次の瞬間私が感じた刺激は予想通りのものだった。
柔らかく、生温かく、そしてぬめついた感触が秘部を這い回る。
「やっ、やめて…」
普段なら身の毛もよだつようなそれも、火がついてしまった身体はこの上なく優しい愛撫として認識してしまう。再び炎が燃え盛り始めるのに、そう時間はかからなかった。
ぺちゅ…ぬちゅっ…ぐちゅ…
柔らかい感触が秘部を蹂躪していく。身体の奥から、熱いものがとめどもなくあふれ出てくる。羞恥心はこの上なく逆巻いているが、それを止める術は全くないのだ。自分の肉体であるのに…。この上ない屈辱だった。
彼はあえて緩慢な刺激を与えつつ、私の反応を楽しんでいるかのようだった。その証拠に、充血しきった秘核に触れることはけしてしようとしない。私を絶頂に運ぶことなど、わけないことであるはずなのに。彼は私の痴態を、明らかに玩具にしていた。
いや…もう…いやっ…
早く…早く終わって欲しい…どうすれば?
早く…達してしまえば?それなら、もっと激しくしてくれれば…
してくれれば…いい…?
「…え…!?」
「どうしたの?急に驚いたみたいな声出して」
動きを止めて、彼が話しかけてきた。
「もう我慢が出来ないとか?確かにここは可哀想なくらいにぷっくり膨らんじゃったけど」
くすりと笑って、彼は秘核を指で弾く。
その瞬間、電撃のような衝撃と快感が突き抜ける。
「うぐぐっ…」
…なんで…?そんな結論が出てきたのだろう…。
これが終わっても、まだ弄ばれつづけるのはわかりきっているのに…。
それなのに、そんな結論が生まれたのは…。
それは…。
私自身が…それを…?
「そっ…そんな…」
「どうしたの?今のがそんなに凄かったとか?」
私の思考に気づいているのかいないのか、からかうような口調で彼が言う。
「これ以上じらすのも可哀想だしね、そろそろとどめを刺してあげようか」
そう言って、彼は再び私の前にしゃがみこむ。
長い沈黙が落ちた。
頭の中には、屈辱とその否定が逆巻いていた。どうしようもなく思考は混乱していた。
私自身が。私自身が…?
違う…違うっ…
でも…、もし…、もし、そうだとすれば…。
堕ち…
「ひうぅっ!?」
その思考を遮るかのように、彼が動く。紅く膨らんだそれに、ねっとりとした刺激が走る。
「やっ、だめっ……っくふぅっ!?あぅっ…!」
これまでとはうって変わり、彼は速く執拗な攻撃を寸断なく加え始めた。服を脱がされて露わになったそれは、悶えることも出来ずに悲鳴を上げ続ける。その悲鳴が響き渡るたび、私の中の抑え切れない快楽がとめどもなく溢れ出てくる。
もはや、私がそれをどう捉えているのかなどは関係がなかった。秘核に刺激が与えられるたび、性感が全身を突き抜ける。その衝撃に、悦びの声を上げずにはいられない。
私は確実に快楽の爆裂へと向かっていった。
「んんっっ、んっ、んーっ!ん、んぁっ、あぅぁっ!」
「もうダメなんだね?シルちゃん」
「んっ…くぅっ、あぐっ…」
「じゃぁ、一つだけ言っておかなければならないことがある」
彼の声が頭の中に響いた。にも関わらず、忌むべき接吻は絶え間なく続いている。恐らくそれは、声ではなかったのだろう。
「これが、『きみ』だ」
「んぁぅっ…うぅぅっ…!」
「それだけだよ。じゃぁ、クライマックスといこうか」
そう言った瞬間、私の秘所へ容赦ない攻撃が加えられた。孤立無援のか弱き真珠を、淫魔の唇が陵辱する。濡れそぼつ蜜壷を、淫魔の指が蹂躪する。もはやそれは、人知の及ぶところではなかった。
思考が麻痺してくる。快楽の乱舞が、呆然とする私を死刑台の上に押し上げていく。
死ぬ…。
そう思った瞬間。地獄の絶頂とともに、私は闇へ堕ちた。
身を起こした。
そのままの場所。そのままの服装。そのままの時間。
ただ一つ加わっている、漆黒の珠の指輪。
それら全てを見ても、私は別段驚きはしなかった。
ここは、地獄だから。
…私は街の灯に向かって、歩き始めた。進むという感覚は消え失せていた。
-END-