「ナーガ。ちょっと早いけど、夕食にしない?」
あたしは、宿屋に戻るなり、ナーガの部屋に行って、食事に誘った。
さっきのおっちゃんの話だと、ナーガの髪の毛が必要みたいなんだけど、それだったら、食事中にこっそり抜き取ってしまうのが一番。食事中ならば、火炎球(ファイアーボール)をくらっても、何事もないかのように食事を続けるナーガのこと、髪の毛の一本を引っこ抜いてもわからないだろう。
「そうねえ、あなたのオゴリ、って言うんだったらいいわよ。」
ナーガの奴、どうせオゴってもらうつもりだったくせして、恩着せがましいこと言って……
でも、今日は必要経費だと思えばいいんだし。
「オッケー、あたしのおごりでいいわよ。」
「随分と素直なのねえ……その素直さが、毎日続けば、わたしはうれしいんだけど……。」
毎日オゴってもらってるくせして、こいつには感謝する気持ちってのがないんだろうか。
「ほら、そうと決まったら、さっさと行きましょうよ。」
ナーガは立ち上がってこっちに来るなり、あたしの背中を押してきた。
「早く歩きなさいよ。わたしの胸のじゃまになるでしょ。」
そう言ってナーガは、あたしの背中に、その胸を当てつけてきた。
本当に、腹立つわね。このでかい態度にでかい胸。
でも、この胸も、明日になれば、ぺったんこになって、大平原の小さな胸の、洗濯板の、ぺちゃぱいになるんだから、今だけの辛抱しんぼう。
そう自分に言い聞かせながら、あたしとナーガは、食道へと向かったのだった。
ナーガの髪の毛は、予想通り、食事中にあっさりと手に入れることができた。
あたしは、食事を終えるなり、部屋へと戻り、ポケットに忍ばせておいた髪の毛を取り出した。
「ふっふっふ。これであたしは、小さな胸とさようなら。大きな胸よこんにちは。そしてナーガは、小さい胸の、社会的、精神的な苦しみを味わうのよ。」
端から見ていると、気持ち悪いことこの上ない台詞をつぶやきながら、あたしは髪の毛を、小瓶の中に入っている液体に浸した。
髪の毛と液体を見ていると、黒髪からその色が抜け出したように、液体が、じんわりと黒くなっていった。
その色の変化も終わったところで、あたしは髪の毛を引き抜いた。
後は、これを飲めばいいだけなのね。
あたしは、ごくりとつばを飲み込んでから、おもむろに小瓶を口に付けて、ぐいっと飲み込んだ。
薬を飲むときみたいに、苦いものを想像しいたんだけど、味は何もなかった。ちょうど水を飲んでるようなもので、あまりにもあっけなく、本当にこれで大丈夫なのかと思えてくるほど。
……ひょっとして、道具屋のおっちゃんに騙されたんじゃなかろうか。
まあ、騙されたら騙されたで、別にお金を取られたわけじゃないし、笑って済ませばいいか。
あんまり考えていてもしょうがないから、とっとと寝ることにしよう、ということで、あたしはさっさとベッドへと潜り込んだのだった。
翌日起きた時には、窓の外はまだ真っ暗だった。
考えてみれば、昨日の夜は、夕食を食べてすぐに寝たんだから、こんな時間に起きるのも当たり前かも……
なんで、そんなに早く寝たんだっけ……あ、そうか。胸が大きくなる薬ってのを飲んで……
昨日のことを思い出して、あたしは胸を見てみたけれど、そこにあるのは昨日までと同じく、見晴らしのいい、小さな胸だった。
やっぱり、騙されたのか……
寝ぼけているということで、怒る気力も起きないままに、ベッドの上に座ってぼんやりとしているうちに、窓の外がうっすらと明るくなってきた。
今日は依頼されてる仕事の方もお休みだし、もう一遍寝ようか、などと思っていると……
あたしは胸の辺りにくすぐったさを感じた。
くすぐったいって言うよりも、いつもよりも敏感になっているって言った方がいいかもしれない。
その敏感な胸に手をやってみると、いつもとは違った胸の感触があった。柔らかいってことではいつもと同じなんだけど、その柔らかさがまるっきり違っている。ただ柔らかいんじゃなくて、飲み水のなくなってきた革袋を触っているような、たるんだような柔らかさだった。
すると今度は、別の感触があたしの胸を襲った。
手を触れる胸が熱くなったかと思ったら、その胸へと、体の中の何かが流れ込んでいくような感覚が、胸から伝わってきた。
それにあわせて、胸に当てているあたしの手のひらが、外に押し出されて行くような……
胸元を見ると、あたしの胸が、びくんびくんと脈打っていた。
それも、ただ脈打っているだけじゃなくって……一回脈打つ毎に、あたしの手が、外に押し出されていって、だんだんとパジャマの下で、その形を露わにしていった。
あたしがぼーぜんとしながら見ているうちに、その胸は、いつものあたしのものを、遙かに上回る大きさになっていた。
さらに大きくなっていく胸に、少し力を入れて押してみると、さっきのようなたるんだ感じはなく、指を押し返すかのようなさわり心地が伝わってきた。
そうしているうちにも、胸の方はさらに大きくなってきて、ついにはパジャマがきつく思えるまでになった。
あたしは、震える指で慌ててパジャマのボタンを外すと、まさに、ぷるん、と言った感じで、二つの大きな胸が飛び出した。
大きい……
すでに、普通の人よりも大きい方に入るぐらいの大きさになっているものの、胸の方はさらに、脈打つたびに、大きくなり続けている。
どこまで大きくなるんだろう?
あたしの心配をよそに、胸の方は休むことなく大きくなり続けていて、あたしの両肩に、その重さが伝わってきている。
こ、こんなに大きくなって……これじゃ、まるっきりナーガの胸じゃないの。
そう思った時に、あたしの胸は、脈打つのを止めた。それと同時に、大きくなるのも終わったようだ。
あたしは、もうこれ以上大きくならないよう願いながら、その二つの大きな胸を、じっと眺めた。
……大きさと言い、丸みと言い、小柄なあたしの体には、不釣り合いな大きさに思えるけれど、でもまあ『男は度胸、女は胸囲。トップとアンダーの差が大きいほど良し』なんて言ってた、どこかのくされ教師もいたことだし。
せいぜい、胸の重みで肩が凝るってことかな。
さっきから引っ張り続けられている肩を休めるために、あたしは大きな両胸を、両手ですくい上げてみた。
「あんっ。」
胸からの、慣れない感覚に、あたしは思わず声を出してしまった。最初に感じた時と同じような、くすぐったさが、あたしの胸から伝わってくる。
あたしは、そのくすぐったさの理由を探るべく、胸を支える手のひらを動かしてみたのだが、どうにも収まらない。
それどころか、そのくすぐったさは、胸からだけでなく、体全体から伝わってきたのだった。
ちょ、ちょっと。これって何?
両足から伝わってくるくすぐったさに、あたしはシーツの下で、もぞもぞと足を動かした。それにあわせて、シーツを持ち上げるつま先が動くんだけれど、その動き方がどうもおかしい。ただ動くだけじゃなくて、だんだんとあたしから遠ざかっていっているような……
あたしは、がばっ、とシーツを持ち上げてみると、そこに現れた足は、いつものあたしの足とは、少し違うような気がした。なんか……いつもよりほっそりとしているような……
でも、太さは変わっていないようだし……そういえば、さっきから、かかとがシーツをこすりあげているような気がするけれど……って、まさか……足が伸びてるっていうんじゃ……
あたしは慌てて、両手を、まっすぐのばした足のつま先へと動かしてみた。届かないように見えたつま先へ、その手はぺたりと届いた。
なーんだ、足が長くなってるって、気のせいじゃないの……あー、驚いた。ほら、ちゃんと腕が届いているんだから……
ってまさかひょっとして?
あたしは、両腕を目の前へと伸ばしてみた。
な、長い……
呪文を唱える時に、よく手を前へ伸ばすから、その幅はわかっているつもりだけど、今のあたしの腕は、それよりもはるかに長かった。
どういうこと……手足が伸びてるって?
何が何だか分からずに、混乱していると、両耳と首のまわりのところに、やけに髪の毛のうっとうしさを感じた。
ええい、こんな時にうっとうしいっ!
思わず髪の毛を手で払うと、髪の毛のふぁさぁっ、とした感じが、あたしの肩を襲った。
なんか、いつもよりも、さらさらとした感じがするんだけど……
あたしは慌てて、肩に掛かる髪の毛を目の前に引き寄せてみた。
そこにあったのは、いつものあたしの、栗色の髪の毛ではなく、長い黒髪だった。
この色、この長さ……
「な、何よ。この髪の毛の色は……んっ!?」
いきなり聞こえたナーガの声に、あたしは部屋のまわりをきょろきょろと見回した。しかしナーガはどこにもいない。
今の声ってひょっとして……
がばあっ、とベッドから飛び起きるなり、あたしは部屋の隅の壁にかかっている、鏡の前へと走った。
その鏡の中にいたのは……ぴっちりとしたパジャマを着て、荒い息を立てている……ナーガの姿だった。
どっしぇぇぇぇぇっ! な、な、何、何、何で、ナーガなのよっ!?
何であたしがナーガだって言うのよっ!?
ぼーぜんとしながら、頬に両手を当てると、鏡にうつるナーガも、同じポーズを取った。両手には、ほっそりとした顎の形が伝わってくる。
あうううぅぅぅぅ。こ、これは夢よ。何かの悪い夢よっ!
夢だ夢だと自分に言い聞かせながら、あたしは訳も分からないままに、訳の分からない踊りを踊っていた。
目の前にいるナーガも、まるっきり同じように踊っていて、悪夢をさらに悪夢へと変えていた。
ど、ど、ど、どうしてこんなことになっちゃったのよ……あたしがナーガになるだなんて……!?
その時あたしは、ふと一つのことを思いついて、すぐさま、隣のナーガの部屋へと向かった。
足が伸びていて歩きにくく、短い間に途中二回ほど転んだりしたけれど、今はのんきに痛がっている場合じゃない。
あたしは、ノックもせずに、ナーガの泊まっている部屋へと入るなり、ナーガが寝ているベッドへとかけよった。
ナーガがくるまっている毛布をまくり上げると、その下にいたのは、栗色の髪の毛をベッドの上にちりばめて、乙女のような純粋な寝顔を浮かべ、そよ風のような優しい寝息を立てて、まるで天使のように眠っている一人の美少女、リナ=インバース、つまりはあたしのことだった。
い、いかん。今はそんな風に、自分の正確な描写をしている場合じゃないっ!
そう気づいたあたしは、すぐさまベッドで寝ているあたしの肩を揺さぶって、あたしを起こしにかかった。
「ちょっと、ナーガ……だと思うだけど……起きなさいよ。」
あたしの口からは、ナーガの声がもれる。なんか、あたしがしゃべるのにあわせて、ナーガがしゃべっているみたいで気持ち悪いんだけど、今はそんなことを考えている暇はないっ!
「ちょっとナーガ。起きなさいよ。」
「うるさいわねえ。誰よ、こんな朝早くから……。」
ベッドに横たわるあたしの体から聞こえてきたのは、まさしくあたしの声だった。
あたしの体は、目をこすってから、あたしの顔をじっと見て、
「あら。誰かと思ったらわたしじゃないの。ってことは、わたしはもう起きているってことね。」
そう言って、ナーガは、って言うか、あたしの体は、再び毛布をかぶった。
「起きんかいっ!」
言うなりあたしは、顔面に向かって蹴りを入れ……ようとしたのだけれど、よく考えたらあたしの顔に蹴りを入れるわけにはいかない。
しかたなしにあたしは、あたしの体を起こして……あうぅ、何がなんだかわからなくなってきそう……首をかっくんかっくんと揺り動かしたのだった。
「何よ、こんな朝っぱらから?」
「ちょっと、あんたってナーガなの?」
「どこの誰だか知らないけれど、何聞いてくるのよ。このわたしは、誰もがみんな知っている、白蛇(サーペント)のナーガに決まってるじゃないっ。」
どこかの英雄伝承歌(ヒロイックサーガ)をふまえたような、答えを返してきたのは、やっぱりナーガだった。
「あんたがナーガだって言うんだったら、あんたの目の前にいるこのあたしは、一体誰なのよっ。」
「わたしの目の前って……。」
そう言って、あたしの体になっているナーガは、あたしの顔をじっと見つめてから、
「ま、まさかっ。
幼い頃に生き別れになった、わたしの双子の姉さんっ!?」
ナーガの口から漏れる、突然の言葉に、今度はあたしが驚いた。
「えっ、あんた、双子の姉さんなんていたの?」
「ふっ、双子の姉なんて、いるわけないじゃない。わたしにはちょっと歳の離れた妹が一人いるだけよ。」
「だったら、そんな紛らわしいこと言うなっ!」
両手は相変わらず、あたしの体になっているナーガを押さえているってことで、あたしは思わず、頭突きをかました。
あっ、よく考えたら、自分の体に向けてやっちゃった。
「ちょっと、痛いじゃないのよ。」
「そんなことよりも、あたしが誰だかわかる?」
「あ、あなたが誰かって……白蛇のナーガじゃないの。」
「それじゃあ、あんたは誰なのよ。」
「そりゃあ、白蛇のナーガに決まってるじゃない。」
「じゃあ、あたしは誰だって言うのよ。」
「ま、まさかっ。
幼い頃に生き別れになった、わたしの双子の妹っ!?」
「もう、あんたとはつきあってられないわっ。」
漫才師のツッコミのようなことを言うなり、あたしはベッドの上に座っている、あたしの体になっているナーガの腕を引っ張って、鏡の前へと移動した。
「ほら、これであんたの体をよく見てみなさいよっ。」
あたしは、あたしの体になっているナーガの背中をたたいて、鏡の前に立たせた。
「よく見てみろって言われても。」
そう言ってナーガは、鏡の前に顔をつきだして、自分の顔をじっとみた。それから、顔を触ってみたり、訳の分からない踊りを踊ったりした。
「リナ……。」
ようやく自分のおかれた状況がわかったのか、ナーガは鏡を向いたまま、驚いたような声をあげた。
「リナ……
この鏡、壊れてるわよ。」
「壊れているのはあんたの頭でしょうがっ!
まだ状況がわからないって言うんなら、これで目を覚ましなさい! 火炎球(ファイアーボール)!」
呪文を唱えて、両手を前に差し出した瞬間に、目の前にいるのは、あたしの体だということを思い出した。
あわわわっ! あたしの体に、呪文当てちゃいけないわ。
しかし呪文は発動することはなかった。あたしの両手で、ぷすん、とランプの明かり程度の光が出ただけだった。
あれ?
「ちょっと、いきなり何呪文しかけてくるのよっ!
こうなったらお返しの氷の矢(フリーズアロー)!」
条件反射的に、ナーガはあたしに向かって呪文を放ってきた。
しかし……さっきと同じく、呪文は発動せず、あたしの体になっているナーガの手のひらからは、氷のかけらが一つ、ぽとんと落ちただけだった。
ナーガは、手のひらから落ちた氷のかけらをしばし見つめてから、あたしの方へと視線を動かして、
「……もしかして、あなたってリナなの?」
「おおっ、ナーガにしてはよくわかったわね……随分時間かかったけど。」
「そりゃそうよ。このわたしに向かって、呪文攻撃仕掛けてくる人間なんて言ったら、リナぐらいしかいないもの。」
そういう理由であたしってわかったのかいっ!
思わずツッコミを入れたくなるが、何はともあれ話が進んだので、まずはよしとしておこう。
「ってことは、わたしがリナの体になって、リナがわたしの体になっちゃったってことなの?」
「どうやらそうみたいねえ。」
「でも、どうして?」
「うーん、あたしにもよくわからないけれど、ひょっとしたら、って心当たりはあるのよね。」
まさか、あんたの胸を小さくさせてあたしの胸を大きくする薬を飲んだからだろうとは言えないので、ごまかしながら、あたしはそう答えた。
「心当たりって?」
「今すぐに、そこに行くから。さっさと着替えて行くわよっ。」
「そ、そう。わかったわ。」
言うなりナーガは、パジャマを脱いで、ベッドの横にあった、悪の魔道士ルックに手をかけて、身につけようとした。
「あ、あら?」
「ちょっとナーガ。裸になって何してるのよ。」
「見てわからないの。着替えているに決まってるじゃないの。」
「だから、それはあんたのいつもの服でしょ。今はあたしの体なんだから、あたしの服を着ないと。」
「そ、そういえばそうねえ……
それにしてもリナ。あなたって。」
「な、何よ?」
「本当に、胸が小さいわねえ。ほら、わたしのこの服、こんなにスカスカよ。」
そう言いながらナーガは、胸に当ててる悪の魔道士ルックの胸元に手を入れて、あたしに見せつけるように、隙間の広さを強調していた。
「ンなことやってるんじゃないっ!」
もう目の前の体が、あたしのものであろうが関係なし。あたしのダッシュ蹴りが、あたしの体になったナーガの顔面に直撃したのだった。
それぞれの体にあった服に着替えるなり、あたしとナーガは、昨日あの薬を買った魔法道具屋へと急いだ。
もっとも、あたしが急いだってのは、ナーガのあの恥ずかしい服を着ているのを、町の人にあんまり見られたくなかったから、ってことの方が大きいかもしれないけれど。
「ここの店よ。ナーガ、あんたはそこで待っててね。」
「ふっ、わかったわ。」
言ってナーガは、栗色の髪の毛をふさっ、となびかせた。
「おっちゃん、いる?」
あたしはドアを開けるなり、声をあげた。
「誰だい? こんな朝から。」
店の奥から顔を出したのは、昨日のおっちゃんだった。
「あ、昨日の薬を飲んだら、こんな風になっちゃったのよ!」
「昨日の薬って。昨日あんたには薬を売った覚えはないが。」
「ほら、あたしよ、あたし。昨日胸の大きくなる薬を買った!」
「おお、あの人かい。で、あんたはその知り合いかい?」
「そーじゃなくて、あたしよあたし。昨日薬を買った本人よ。」
「本人て言ったって、昨日薬を売った相手の顔ぐらいは覚えているさ。
こう見えても、頭はボケてないぞ。」
「だから、あの薬を使ったらこうなっちゃったのよ。
えーい、まどろっこしいっ!」
そう叫ぶなり、あたしは店の外に飛び出して、ナーガの腕を引っ張った。
「ちょっと、何するのよ?」
尋ねるナーガを無視して、あたしはナーガを店のおっちゃんの前に引き連れた。
「ほら、この、美少女に昨日薬を売ったでしょ。」
「美少女かどうかは知らないが、彼女には薬を売ったが……。」
「ちょっとリナ。薬って何よ……?」
「その薬を飲んだらっ、この二人の体が入れ替わっちゃったのよっ。」
不審がるナーガを無視して、あたしは話を続けた。
「ってことは、あんたがあの薬を飲んだって言うのか?」
「そうよ、さっきも言ったじゃないのっ!」
「そうだったかのう。」
……さっき、『こう見えても、頭はボケてないぞ』って言ったのは誰よ。
「しかし、お前さん。昨日は魔道士じゃない、普通の女の子に飲ませるって言ったじゃないか。」
「……そういうことはちゃんと覚えているのね。」
「そうか、そういうことか。」
言っておっちゃんは、カウンターの椅子に腰掛けて、こちらを見つめた。
「つまり、魔道士のあんたが、あの薬を飲んだということだな。」
真面目な顔で尋ねてくるおっちゃんの言葉に、あたしは小さくうなずいた。
「どうなっているのよ……?」
「あんたは黙ってなさいっ。」
言ってあたしは、ナーガに蹴りを入れてから、
「それで、魔道士のあたしが飲むとどうだって言うの?」
「あの薬は、他人の胸を小さくすることで、自分の胸を大きくすると言ったろ。」
「うん。そういったわね。」
「あれがな。普通の人が使えば、効果は胸だけに納まるのだが、魔力の強い魔道士が飲むと、その効果は、胸だけには止まらないようになるのだ。」
「……胸だけには止まらないって言うと?」
「つまりは、胸だけじゃなく、体全部の部分が、入れ替わるということだ。」
な、な、何てことに、なっちゃったのよっ!
「それで、あたしとナーガの体が入れ替わっちゃったってことなの。」
「正確に言えば、体全部の特徴が入れ替わったってことなんだが、わかりやすく言えば、そうなるな。」
「そんな落ち着いた顔で言われても……
なんでそんなことがあるって言ってくれなかったのよっ。」
あたしの追求にもおっちゃんはひるまずに、
「しかし、お前さんは、自分じゃ使わないと言ってたじゃないか。」
「あんたねっ。商売人のくせして、乙女心がわからないの!
こういう薬ってのは、なるべく自分が使うんじゃなくって、他人が使うって見られたいに決まってるじゃないのっ。」
「そんな乙女心知るかっ。」
「あんたが売ったんじゃないのっ。」
「わしはあんたにサービスであげたはずだっ。」
……くっ、言われてみれば、確かにそうだった。こうなるとあたしの立場は弱いってことになるわね。
「それで、どうにか元に戻らないの。」
「そりゃあ簡単だ。薬の効き目は一時的なものだから、待っていれば効き目が切れて、元に戻れるさ。」
「なーんだ、そんなことなんだ。」
おっちゃんの言葉に、あたしはほっと一息ついた。
「まあ、ちょっと効き目が切れるのが長いってのが問題だがな。」
「長いって、どれぐらい?」
「そうだなあ。ざっと三百年ぐらい。」
「とっくに死んでるわよっ。もっとちゃんとした方法はないの。」
あたしは、カウンターに身を乗り出して、おっちゃんに向けて叫んだ。
「おお、死んでるで思い出した。この薬は相手の特徴を持ってくるものだからな。相手が死ねば、その呪縛が解けて、体は元に戻るはずだがな。
と言っても、まさかそれだけのために相手を死なせるわけにも……おい、あんた何をしているんだ。」
「見ればわかるでしょっ。首を絞めてるところよっ。」
いつもに比べて回復力がないようで、さっきあたしに蹴りを入れられてから気絶し続けていたナーガの首を、あたしは締め上げていたのだった。
「あんた、自分の体相手によくそんなことができるなあ。」
はっ、言われてみればこれってあたしの体なのよね。
「うーん、確かにあたしの体の首を絞めるってのは、あんまり気持ちいいもんじゃないわね。」
「……いや、そういう理由で首を絞めちゃいかんというのではないのだが。」
あたしの理性的な判断に、なぜか困惑するおっちゃんだった。
「あっ、そうだ。もう一度薬を飲めばいいだけの話じゃないの。」
「そりゃそうだが。あんたたち、今でも呪文が使えるのかい。魔力がないと、体の一部が入れ替わるだけだぞ。」
「そ、そういえば、さっき呪文が使えなかったわ。」
「体が入れ替わったから、呪文も使えなくなっているんだろうなあ。」
「他に方法はないのっ?」
「うーん、ないこともないんだがなあ。」
歯切れの悪そうな声で、おっちゃんは答えた。
「なにぶつぶつ言ってるのよ。方法があるんだったら早く教えてよ。」
「それがな。
……あんたと、ええと、あんたの体と入れ替わった二人がな、同時に絶頂に達すれば、元の体の特徴に戻る、要するに、元の体に戻るってことだな。」
「絶頂って……。」
おっちゃんの口から出た言葉に、あたしはしばしぼーぜんとしてから、
「どうしてそんなことしなくちゃならないのよっ!」
思い出したように、叫んだのだった。
「どうしてって言われても、そういう小説だからなあ。ここまででさんざん枚数使ったから、ここいらでそういう話に入らないと……。」
「何言ってるのよ?」
「いや、何。こっちの話だ。
さっき、相手が死ねば元に戻ると言ったろ。それと同じで、絶頂に達して、ある意味死んだようになれば、元に戻るというわけさ。」
「だからって、なんでまた二人同時でないといけないのよ。」
「そりゃあ、そういう小説だから、その方が読者が悦ぶだろうから……。」
「さっきから何言ってるのよ?」
「一人だけが絶頂に達しても、相手が普通の状態だったら、特徴が戻らないからな。同時でないと駄目なんだ。」
「そうなんだ……。」
二人一緒に絶頂に達すればなんて言われても……いくらなんでも、ナーガと一緒に絶頂ってのはちょっと……
などとあたしがためらっていると、
「なーんだ、それだけで戻られるって言うんだったら、さっさと始めましょうよ。」
いきなりそう言ったのは、いつの間にか起きあがっていた、あたしの体になったナーガだった。
「ちょ、ちょっとナーガ。今の話、聞いてたの?」
「ええ、聞いてたわよ。わたしとあなたが同時に絶頂に達すれば、この体が元に戻るって言うんでしょ。」
あうー、ナーガの奴、しっかり聞いてやがんの。ナーガが気絶しているうちに、なんとかいい方法を考えようと思ったんだけれど。
「あ、あたしはイヤよ。あなたと一緒に絶頂に達するだなんて。それって、あんたと寝なっきゃならないってことでしょ。」
「まあ、そうなるわねえ。」
「そんなのイヤよっ!」
強く拒むあたしに対して、しかしナーガは、
「あら、そもそも誰のせいで、こんなことになったと思っているの。どこかの胸無し魔道士が、わたしの大きな胸をうらやましがってこんなことになったんじゃないの?」
うぐぐぅ。そう言われるとあたしの立場は弱い。しかしあたしは、ここでナーガの言葉に従うわけにもいかない。
「そ、そんなこと、今となってはどうでもいい話よ。」
「あらそう。それじゃあ。」
そう言ってナーガは、大きく息を吸うと、窓を開けて、外に顔を出して、
「ご町内のみなさま。魔道士リナ=インバースは、自分が胸がなさ過ぎることで人生に嫌気がさして、ついには他人の胸を拝借しようなんて暴挙に出ました。」
「ちょ、ちょっとナーガ。そんなこと言わないでよ。」
あたしは必死にナーガを押さえつけるが、しかしナーガは大声で叫び続け、
「では、ここで、リナ=インバースが、どれほど胸がないかを皆さんにお見せいたしましょう。」
そう言ってナーガは、身につけている上着に手をかけた。
ま、マズイ。さっきのナーガの声で、野次馬が集まってきている。今ここでナーガに、町内の皆さんに胸なんか見せられたら、元の体に戻った時に、『胸無し魔道士』どころか、『胸出し魔道士』って言われるようになってしまうっ。
「わ、わかったわよ。ナーガっ。やればいいんでしょっ。やればっ。」
「そうそう、ヤればいいのよ、ヤれば。」
あたしの言葉にナーガは、にやぁ、っとした笑みを浮かべて、そうつぶやいたのだった。
「やっぱりこういうことは、こういう場所でやらないとね。」
やたら張り切るナーガに引っ張られるように連れてこられたのは、そういうことをするための宿屋だった。
大きなベッドが真ん中にある部屋の一角には、浴室らしきドアが見える。
「ナーガ、やっぱり本当にやるの?」
「何言ってるのよ。こうしなくっちゃいけないって言うんだから、しょうがないじゃないの。」
「しょうがないって言っても、顔がにやけてるんだけど。」
「ふっ、そもそも、誰のせいでこんなことになったと思って。」
うっ。それを言われると、あたしも引かざるを得ない。
「さ、それじゃあさっそく始めましょっ。」
そう言うなり、ナーガはあたしにもたれかかってきた。
なにせナーガの体には慣れていないということで、軽く押されただけであたしはバランスを崩して、ベッドへと倒れ込んでしまった。
倒れるあたしの上には、ナーガが覆い被さるようにくっついている。
目の前には、あたしの顔のアップ……あたしの顔があるなんて、なんか変な感じがしてくる。
「ちょ、ちょっとナーガ。あんた、自分の体を前にして、平気でいられるの?」
「わたしだって平気じゃないわよ。」
「そりゃそうよねえ。」
「こんな抜群のプロポーションを持つ体を、この手で弄(もてあそ)べるなんて考えるだけで、興奮してぞくぞくしてくるわっ。」
うあぁぁ。ナーガって、こういうセンスの持ち主だったのか。前から変わっているとは思っていたものの、あたしは改めてナーガの感覚の恐ろしさを実感したのだった。
「そんな……弄(もてあそ)ぶだなんて。」
「しばらくは、わたしの体であなたを楽しませてあげるから、楽にしてていいわよ。」
言いながらナーガは、あたしの体をまとう、悪の黒魔道士ルックに手をかけた。
さすがに自分の着ていたものだけあって、手慣れた手つきで、ショルダー、マント、額のアミュレット、髑髏のネックレスを外していく……などと感心している場合じゃない。
「ちょっと、ナーガ。」
「うるさいわねえ。こういう時には、女は黙って服を脱がされるのを待つものなのよ。」
「あんただって女でしょうがっ。」
「ほら、動かないで言っているでしょっ。
はい、これで上はオッケー。」
そう言ってナーガが、胸を覆う布きれを外すと同時に、あたしの両胸をずっしりとした感触が襲った。
こ、これって胸の重み……悲しいかな、今まで胸の重みなんて考えたことなかったけれど、まさかこんなだとは。まあ、ナーガの胸だから重たいのはわかるけれど。
「随分と驚いた顔してるけど、どうかしたの?」
「いや、あんまり胸が重たいからと思って……。」
「ふふーん、そうよねえ。そもそも胸のないあなたには、胸の重みなんて存在しないもんねえ。」
「あ、あたしだって、少しはあるわよっ。」
「へー、これでもあるって言うんだ。」
上半身を左右に動かしながら、ナーガはそう言った。
「ちっとも揺れないじゃないの。あー、胸がないって楽でいいわねえ。」
ム、ムカツク……でも実際に試されてるんだから、反論の余地もないし。
「さてと。ひとまずこれでいいわね。
それじゃ、早速始めるとしましょうか。」
そう言うなりナーガは、上半身裸になったあたしの後ろへと回り込んだ。
「ナーガ、何するつもりよっ。」
「決まってるじゃないの。あなた、まだわたしの体に慣れていないんでしょ。だから、このわたしが、どこが感じるか教えてあげようかな、ってことよ。
わたしがいつも、どうやって一人で楽しんでいるか、教えて・あ・げ・る。」
「そんなもの、教えて欲しくないわよっ。」
「あーら、リナったら強情なんだから。でも、感じるところを知らなくっちゃ、絶頂に達するってのも無理なんじゃないの。」
うぐっ……相変わらず人の弱みを付いてくる奴。
「それじゃ始めるわよっ。」
「うひゃうっ……って、ナーガ、いきなり何するのよ。」
「何って、胸を揉んだに決まってるでしょ。あ、そうか。大きな胸なんて見慣れないあなたには、どういうことかわからなかったのね。」
「それぐらいはわかるわよ。そうじゃなくって、何いきなり胸なんか揉んでくるのよっ。」
「だってわたしはいつも、胸から揉んでるわよ。」
「そうじゃなくって。」
「ほーら、こんな風に。」
ナーガの手が、あたしの大きな胸を持ち上げるようになぞっていく。時にはその重さを調べるかのように持ち上げてみたり、時にはその丸さを形作るかのようになぞってみたり、せわしなく動く。
その手の動きからは、胸を通して暖かい感触が伝わってくる。
「んっ、んふっ。」
「あら、リナったら、もう感じてきちゃったの?」
「感じてなんか、ないわ……よ……。」
「嘘言ってもだめよ。気持ちよくなくって、そんな甘ったるい声が出せると思ってるの。」
「そ、そんな……。」
ナーガの言葉に、頬の辺りが火照ってきた。
「わたしはね。こうやって胸の下をさすって言って、ため息が出るようになったら、だんだんと、その手を、上の方に持って行くのよ。」
上の方って……乳首のこと? 思わず想像してしまい、あたしはさらに頬を火照らせた。
「どうかしら。そろそろあえぎ声が出てもいいと思うんだけど。」
「そ、そんな……。」
あたしは、口からあふれ出そうになるあえぎ声を、必死にこらえていた。
「本当に強情なんだから。それじゃあ今日は順番を変えて……。」
「ああっん。」
ナーガの指先が動いて、両胸の乳首を一度につまみ上げた時に、あたしの口からは、こらえていたあえぎ声が、一気にわき出た。
「あら、刺激が強すぎたみたいね。いつもだったら、片方の乳首から、ゆっくりといじっていくんだけれど、リナが強情なんで、特別コースよ。」
そう言いながらも、ナーガの指使いは止まらない。
「ああっ、あんっ、あんっ。」
あたしの口からは、いつも聞いている高笑いからは想像も付かないような、甘ったるいナーガの声が漏れ出し続けている。
「どうやらのってきたみたいね。それじゃあ、いつも通りの順番で続けさせてもらうわよ。」
乳首をつまむ指が離れたかと思ったら、その乳首の上に、手のひらがかぶせられた。その手のひらで、乳首を押し込むようにしてから、さらに指先を乳房にめり込ませるように鷲掴みにする。
「どうかしら、リナ。ちょっと痛いかも知れないけれど……痛かったら言ってね。」
ナーガの言葉に、あたしは思わず優しさを感じた。
「ううん、痛くない。それよりも……気持ちいい。」
あたしの乳房を揉むナーガの両腕に、軽く手を添えて、あたしはそう言った。
「そう。気持ちいいって言ってくれた方が、わたしもやりがいってものがあるわ。それじゃあ、もっと気持ちよくさせてあげる。」
「うひゃぅっ。」
首筋からの刺激に、あたしは思わず声を挙げた。
「どう。いつもはアクセントに、指でなぞるんだけれど、今みたいに舌でなめられるってのもいいんじゃないの。」
「う、うん。」
あたしは、首筋に残る、柔らかい舌の感触と、そこからじんわりと伝わってくる快感を味わいながら、軽くうなずいた。
「それじゃあ、そろそろいいかしらね。」
その言葉と同時に、ナーガの指が胸から離れて、すうぃっ、と下の方へと移動していった。触れるか触れないかの、肌への微妙なタッチが、あたしの体に、優しい気持ちよさを送ってくる。
やがて、ナーガの指の動きが止まった。
あっ、ちょっとそこは……
ナーガの指が、腰を覆う布きれにかかっているのに気づいて、あたしは慌てて、その指へと、手をかぶせた。
「何よ、せっかくいいところなのに。」
「でも、それを取られると、アソコが見えちゃう……。」
「何言ってるのよ。わたしは見慣れているわよ。」
「あたしが見慣れてないのよっ。」
「リナったら、しょうがないわねえ。
いいわ。それだったらこうするから。」
言うなりナーガは立ち上がって、その体にまとっているあたしの服を一気に脱ぎだした。
「ちょ、ちょっとナーガ。何するのよ。」
あたしが止めるのも聞かずに、ナーガはあたしが身にまとっていたもの全てをベッドの下に投げ捨てた。そして、ベッドの上に立っていたのは、何一つ身につけずに、その素肌をさらしている、あたしの体だった。
「ほーら、こうやってわたしは全部脱いじゃったんだから、あなたも脱がなきゃ不公平ってもんでしょ。」
「わ、わかったわよ。脱げばいいんでしょ。」
あたしの体を素っ裸にされたってことで、半ば自棄になって、あたしはそう答えた。
「あ、ちょっと待って。こういうのは、脱がせる楽しみってのを味あわないと。」
脱がせる楽しみって言ったって、あんたの体だろうが。
まあ、いつもあんな露出狂みたいな格好をしているナーガのことだから、そういう趣味があるのかもしれないけれど。
「さ、さっさと脱ぎましょうね。」
再びあたしの後ろに回るなり、ナーガは、あたしの腰をわずかに覆う布きれに指をかけた。
「ほら、腰を持ち上げて。」
ナーガの言葉に従って、あたしが腰を浮かすと、その指を、一気に太股の半ばにまで動かした。
脱がされた黒い布と、露わになったアソコの間に、透明に輝く糸が、つーっ、と伸びた。
「あらー、なんか糸を引いているみたいだけど、ちゃんと濡れてるみたいね。」
「そ、そんなこと言わないでよ。」
やたらうれしそうにそう言ってくるナーガに、あたしはまたしても恥ずかしい気持ちになった。
「まだ脱がせ終わっていないわよ。ほら、足を折り曲げて、手が届くようにしてよ。」
ナーガはあたしの後ろに座ったまま、あれこれと注文を付けてくる。それに従って、足を曲げると、ナーガは足の間に、器用に黒い布を動かしていき、やがてその布きれは、あたしのつま先を抜けた。
これでもう、あたしの身につけているものは何もなくなった。何となく感じた心細さから、あたしは、ナーガの片手を掴んで、あたしの首に巻き付けた。
「うふ。甘えちゃって。それじゃあ、もっと甘えさせてあげようかしら。」
言ってナーガは、右手をあたしのアソコへと伸ばした。
「んあぁっ。」
アソコへと伸びた、ナーガの指の動きに、あたしは思わず声をあげてしまった。
「ふふっ、ちゃんと濡れてるみたいね。」
そう言ってナーガは、その指先を、あたしの目の前に持ってきた。目の前で動く指の間には、蜘蛛の巣のような、繊細な糸が横たわっている。
あたしのアソコが濡れているんだ……
これがナーガの体だってことはわかっていても、体が気持ちよさに反応してしまっていると思ったら、あたしは思わず、その指から目をそらした。
「ほら、ちゃんと見ないと駄目でしょ。
でも変ねえ。いつもだったら、もう少し濡れてるんだけど。」
ナーガは、その指先を、再びアソコに這わせてから、
「あなた、まだ緊張しているんじゃないの。もっとリラックスしなさいよ。
そうしたら、わたしがもっともっと、気持ちよくしてあげるから……。」
もっともっと気持ちよく……
その言葉と、ナーガがアソコに這わせる指先から来る快感に、あたしは、こっくりと小さくうなずいたのだった。
「そう。わたしの指の動きだけを考えていればいいから。わたしはね、あなたがどこが気持ちいいと思うのか、全部知ってるんだから。ほら、指があなたのアソコの割れ目を動いているのが、わかるでしょ?」
言われてアソコに意識を集中させると、細い指の感触が、大きな快感を伴って、アソコから伝わってきた。
ああ、いい……なぞられてる、だけなのに……
「ふふっ。やっと快感に素直になったみたいね。アソコも濡れてきたみたいだし、それじゃあ次は。」
あたしのアソコから、ナーガの指が離れた。そして次の瞬間に、その指は、別の場所へと再び触れた。
「あはぁぁっ。」
「随分と気持ちいいみたいね。わたしっていつも、アソコを濡らしてから、その濡れた指で、クリトリスをいじることにしているから。」
「いやっ、そんなこと言わないで。」
「ふっ、そうよね。言われなくっても、何がどうなっているのか、よくわかっているみたいだものね。」
ナーガの指先は、器用に突起をかき分けて、微妙な刺激を与えてきた。
「あふっ……んんっ! くぅっ。」
その指先は、小さな突起に、様々な刺激を与えてくる。その度にあたしのアソコからは、違った快感が訪れて、あたしを息苦しくさせる。
「はあっ、はあっ……ああんっ。」
指が止まったかと思って、呼吸を整えようとすると、それを見透かしたかのように、新しい刺激を与えてくる。
「どう、こうやって攻められると、すっごく感じるんじゃないの? それも、どうやって攻めてこられるかわからないんだから、わたしが一人でいじる時よりも、よっぽど気持ちいいはずよ。」
ナーガの言葉に、あたしは何も考えられないままに、こっくりとうなずいた。
「ふふ、本当にうらやましいわね。それじゃあ、悔しいから、もっともっと気持ちよくさせてみようかしら。」
ナーガの指が、離れてから、あたしのアソコへと戻った。しかし、指の動きはそこで終わることはなかった。
「うくっ!」
突き刺さるような快感が、あたしを襲った。アソコに突き立てられた指の先は、ゆっくりと、アソコの中へと入っていくのが伝わってくる。
「ナ、ナーガ……。」
「ふっ。あなたは何もしなくてもいいのよ。ただ、気持ちよがっていればいいだけよ。」
アソコからくる気持ちよさのためか、あたしはナーガの言葉を素直に受け入れ、アソコの指の動きに、意識を集中させた。
アソコには、わずかに指が一本だけ入ってきているはずなのに、その快感は、それが指一本から来るものとはとても想像できないようなものだった。
体が、広げられるみたい……
「すごいわよ、リナ。あなたのアソコ、熱くって、ぬるぬるしてて、指が吸い込まれていくみたい。」
「そんな、これってあんたの体じゃないの。」
「ううん、いつものわたしよりも、よっぽどきつく、締め付けられているわ。あなたがよっぽど欲しがってるってことよ。」
「そんなこと……な……あ、あはっ。」
あたしの言葉は、アソコの中の、ナーガの指の動きによって中断された。
「ちょ……ナーガ……指、動かさない……で。」
「ふふ。わたしに任せてって言ってるでしょ。
あら、そういえば、さっきからアソコばっかりで、こっちの方がお留守になっていたわね。」
言うなりナーガは、あたしの首に巻き付けていた腕をほどいて、あたしの胸へと這わせた。
「あふっ。」
ナーガの手のひらが触れると同時に、アソコからの強烈な快感とは違う、穏やかな快感が、あたしを襲った。
「い、いいっ。」
気持ちいいのは、胸とアソコだけじゃない。ナーガと触れあっている、体全部から、暖かい快感が伝わってきている。
「すっかり気持ちいいって顔ね。いつものわたしって、こんな顔をしていたなんて知らなかったわ。ますます興奮してきちゃう……
それじゃあそろそろ、仕上げに入ろうかしら。」
仕上げって何を……?
そう思うなり、アソコに入ったナーガの指が、くいっ、と動いた。アソコの中を、なぞるように、指先が動いている。
「指先の感触しかないから、よくわからないけれど、確かこの辺りよね。」
そうつぶやくと同時に、アソコの中で動いた指先からは、さらなる快感がわき出てきた。
「な、何……ああっ、いいっ。あひぃぃっ。」
「やっぱり気持ちいいみたいね。わたしって、アソコの中のここいら辺が、一番感じるのよ。」
「んああぁぁっ。」
肺の空気を絞り出したかのような声が、あたしの口から出ていく。
アソコからの快感は、胸や背中から来る快感と合わさって、さらに強いものになってきている……
体中の感覚が、溶けて消えていく……
体中の感覚が、快感によって支配される……
全てから解き放たれて、魂が浮かんでいるよう……
その魂すらも、全身からの快感によって支配された時……
「あああぁぁぁーーーっ!」
その叫び声と一緒に、体から全ての力が抜けだしたかのように、あたしは力無く、後ろに座るナーガへと倒れていった。
ぼんやりとした頭で、あたしを包んでくれている、ナーガの両腕の暖かさを、味わいながら……
「どう、気持ちよかった。リナ?」
あたしを呼ぶ声に目を開けてみると、目の前にあったのは、あたしの顔をのぞき込む、あたしの顔だった。
……あ、そうか。体が入れ替わってるんだっけ。
深い眠りから覚めた時のような、ぼんやりとした頭の中で、あたしは今までのことを思い出した。
「あ、あたし。気絶しちゃってたの?」
「ううん、そんなことないわよ。ただ、あなたが倒れ込んできてから、あたしがこうやって膝枕をする間、眠ったような顔をしていたけれど。」
あたしの顔にかかる黒髪を、一本一本丁寧に払いながら、ナーガはそう言った。
膝枕って……頭に意識をやってみると、柔らかい太股の暖かさが伝わってきた。
これってなんか……いいな。
「どう? よかった?」
「ありがとう……。」
肯定の言葉より先に、お礼の言葉が、あたしの口から出た。
「……そう。それだったら。」
言ってナーガは、栗色の髪を、ふさっ、とかき上げて、
「じゃあ、今度は、あなたがこの体を気持ちよくさせて。あなたばっかり気持ちよくなってちゃ、不公平ってものでしょ。」
……そういえば、あたしだけが絶頂に達してもいけないんだ。
でも、相手は自分の体。それを気持ちよくさせるというのもどうにも気が引ける。
「やっぱり……あたしもそうしなっきゃ駄目?」
「そりゃそうよ。体を元に戻すためでしょ。」
「でも、だからってあたしがあんたを気持ちよくさせる必要もないんじゃないの。あんたがあたしを気持ちよくさせるのと一緒に、勝手に絶頂に達するとか。」
「だからこそ、その前に、あなたの手で、どうやったら絶頂に達するか教えて欲しいわね。」
あたしの言葉に、ナーガはしつこく食い下がってきた。
ナーガの奴、気持ちよくなりたいからってそんなことを言って……などと思っていると、ナーガはあたしの手を掴んで、
「わたしも……欲しいのよ。あなたに、リナに、気持ちよくしてもらいたいの。」
瞳をウルウルと輝かせながら、そう言ってきた。
うっ。自分の顔だってのに、何だかしらないけれど、やけに色っぽく見えるのは、どうしてなんだろう。
……ナーガも、本気で欲しがっているってことだろうか?
「わかったわ……
それじゃあ、さっそく。」
あたしは、ナーガの膝の上に頭を乗せたまま、体を裏返した。そしてそのまま、顔を、ナーガのアソコへと近づける。
「ちょ、ちょっと。いきなりそこなの?」
「何、驚いてるのよ。いちいち最初っから初めていたら、あなたが待っていられないと思ってね。
それに、もう準備は十分じゃないの? ほら。」
「ああんっ。」
あたしは、顔のすぐそばにある、ナーガのアソコに指を這わせ、濡れた蜜をすくい取った。
「こんなに、濡れてるんだから。」
「もう……いじわる。」
さっきのお返しとばかりに、濡れた指をナーガの目の前に差し出すと、ナーガは顔を背けた。
「駄目でしょ。あたしのこと、ちゃんと見てくれないと。」
右手をアソコに這わせたまま、あたしは左手をナーガの首に巻き付けて、ぐっと近づけた。
「目を閉じて。」
あたしの言葉に、ナーガが目を閉じたのを見てから、あたしはゆっくりと、唇を近づけていった。
「んっ。」
唇から、柔らかい感触が伝わってくる。軽く唇を重ねるだけの、軽いキッス。
「リナ……。」
「何、ナーガ?」
「ありがとう。あなたから、口付けしてくれて……。」
言われてあたしは、これが最初のキスだということに思い当たった。気づかないうちにしていた、ごく自然なキスだった。
「あそこにも……早くちょうだい。」
ナーガの言葉に、あたしはこっくりとうなずいてから、指の先で、突起を探り当てた。
「んんっ。」
「どうナーガ。気持ちいい?」
「う、うん……とっても。」
指の爪を噛みながら、ナーガは小さくそう答えた。
「あたしはね。こうやって一気に上り詰めるのが好きなのよ。」
そう言ってあたしは、小さな突起を強く押した。
「あふっ。」
あたしの指使いに、ナーガは全身で答えてくれている。それが、たまらなく愛おしかった。
「どう。指、痛くない?」
「ううん、大丈夫。それにしても……あなたの体の刺激って強烈なのね。なんか、体中が、燃えてるみたい。」
「そうかもしれないわね。でも、ナーガの体だって、気持ちよかったわよ。包まれるような、暖かい気持ちになれたし。」
「そ、そう。確かに、わたしの体とは違うわよね。こんな強烈な刺激……初めて。」
「それじゃあ、そのまま一気にイカせてあげるわ。」
言うと同時に、あたしは突起をいじる指をさらに激しく動かした。いつもは、自分がイクために動かしている指も、今はナーガをイカせるために動かしている。
あたしの指が、あたしの体が、ナーガを気持ちよくさせているんだ。もっともっと、ナーガに気持ちよくなってもらいたい。
あたしは、首にかけた腕を引っ張って、あたしとナーガの体を密着させた。
体を通して、火照ったナーガの気持ちが伝わってくるみたい……
あたしがさらに指を動かしていると、ナーガの体が、ビクン、ビクン、と動き始めた。
これって、あたしがイク時の動き。
「ナーガ、もうすぐよ。もうすぐイクわよ。」
「え、う、うん……わたし……も、駄目……。」
ナーガの体の動きは、さらに激しくなった。
「ほら、イッちゃいなさいっ。」
あたしは、指先の突起を、体に埋め込むように、強く押した。
「あっ、あっ、ああぁーーーーーっ!」
叫び声と同時に、ナーガの体が、大きくビクンと動いたかと思ったら、それを最後に、ナーガの動きが止まった。
「イッちゃったんでしょ。ナーガ。」
体が動かなくなってから、しばらくして、ゆっくりと顔を上げたナーガに、あたしは声をかけた。
「うん、わたし、イッちゃったみたい。
……それにしても、同じイクって言っても、人によって、随分と違うものなのねえ。」
「そうね。あたしも、こんなに違うなんて思ってもみなかったわ。あ、でも、リナの体の、あの強烈な絶頂って、なんかリナなんだなあ、って思えるわよ。」
「そういうナーガこそ。あの包まれるみたいな感覚って、ナーガのイメージにあってると思うわ。」
そう言ってから、あたしとナーガは顔を見合わせて、くすりと笑った。
「お互い、変なこと誉めてるわねえ。」
「そうね……
ところでリナ、二人とも絶頂ってのがわかったんだから、そろそろ始めない。二人で同時に絶頂ってやつを。」
「……そうね。あ、でもどうやってやろうか。」
「そんなの決まってるじゃない。」
そう言ってナーガは、あたしの首に手を回してきた。
「どうするの?」
「成り行き任せに決まってるじゃない。」
その言葉が終わると同時に、ナーガはあたしをベッドに押し倒した。そして、交わす、熱いキス。
「成り行き任せって言ったって……それでうまくいくの?」
「いいじゃないの。何回もやれば、偶然一緒になるってこともあるわよ。」
「ナーガらしいわね。」
「こういう考え、嫌い?」
「ううん、あたしも好きよ。」
ナーガの言葉に同意するかのように、あたしはナーガと唇を重ねた。
それから、どれぐらい愛し合っただろうか。そして、何回絶頂に達したのだろうか。あたしたちは、最初の目的を忘れて、相手に快感を与えることに必死になっていた。快感を与えることが、自分にとって最大の快感であるかのように。
気づくと、あたしたちは、お互いの股間をこすりあわせていた。
体の大きさからか、あたしがナーガの片足を抱えて、リードする形になっていたけれど、気持ちいいってのは二人とも同じ。
足を掴んで、股間を押しつけると、あたしのアソコには、柔らかい感触や、茂みの感触が伝わってくる。その度に、あたしとナーガは、歓喜の声を上げた。
「ああっ、いい……気持ち……。」
「わ、わたしもよっ。なんか……すごい……。」
お互いが気持ちよくなっているということで、あたしたちが、股間を通じて一つになっているような気分になってきた。
ナーガと、一つになりたい。身も、心も……
あたしの中に、さらに求めたいという気持ちが高まってきて、それを伝えようと、さらに強く腰を押しつけた。
重なり合ったあそこからは、ぬちゃぬちゃ、といういやらしい音が届く。
「リ……リナ。」
その音の合間に、あたしを呼ぶ声が聞こえた。
「リナ、わたし、もうイッちゃいそう。」
苦しげな声で、ナーガはあたしにそう伝えてきた。
「ナーガ、あたしもよ……イク時は、一緒にね。」
言ってあたしは、ナーガに手をさしのべると、ナーガも手を伸ばしてきた。あたしとナーガは、その手をぐっと握りしめた。
手を通して、その握る力強さが伝わってくる。
……あたしたち、結ばれているんだ。
あたしは、心の中で、何度もナーガの名を呼んだ。
「リナ。わたし、もうイク。」
その言葉と同時に、ナーガはさらに腰をつきだしてきた。
あたしの体が、再び快感に包み込まれようとしていた。でも今回は、あたしだけじゃない、股間から伝わってくる、ナーガが感じている快感にすらも、包み込まれるような感じになった時、
「ナ……ガ。ああぁぁっーーーーっ。」
「リナ、リナ……んああああぁぁぁぁっ。」
燃えるような絶頂が、あたしを優しく包み込んだのだった。
『かんぱーい』
「いやあ、体が元に戻ってよかったわねえ。」
「そうね。やっぱり自分の体が一番よね。」
あの後、目を覚ましたあたしとナーガの体は、見事元に戻っていた。それで、さっそくこうやって、食事をしているのだった。
「さ、リナ。飲みなさいよ。」
そう言ってナーガは、あたしにジョッキのジュースを勧めてきた。
「サンキュー、ナーガ。」
あたしは、そのジョッキを、くいっ、と一気に飲み干した。
……ん。ナーガが、人の食事を取ることはあっても、人に食事とかを勧めることなんてないはず。
とすると、もしかして。
「ちょっと、ナーガっ!」
あたしは、テーブルの下に持っていこうとしていた、ナーガの右手を掴んだ。その手に握られていたのは、あの薬が入っていたのと同じ小瓶だった。
「これってどういうことよっ。またあたしと体を入れ替わろうって言うの!?」
「だって、あんな経験初めてなんだもの。一回だけじゃもったいないじゃない。どうせまた戻れるんだから……。」
「そういう問題じゃないでしょっ。」
そう叫びながらも、あたしは思った。そういうのも、たまには悪くないかなあ、と。
体の入れ替わりということで、相手のことをどう表記するか迷ったのですが、リナの体になったナーガを、単にナーガと言うということで済ませてしまっています。読んでいて混乱するかもしれませんが、そこは作者からの愛の鞭だと思って、どうにかこうにか読んで下さい。
では、いずれ機会がありましたら、どこかでお会いしましょう。